2021年03月27日(土)

小説 パン職人の修造 第2部 製パンマイスター

 

パン職人修造 第2部 製パンマイスター

 

修造はナッツのコンテストで優勝してから、セミナーや講習会で他店のシェフと交流する事が多くなった。

修造の顔写真が優勝者の欄に貼られて業界に広く配られたので向こうから気が付いてくれる事も多い。

色々話を聞く内に、何か資格を取ったらどうかと言われ、そこで初めてマイスターの事を聞いた。

「マイスター?」

「そんな制度のある国もあるんだよ。もっと詳しいシェフもいるから紹介しようか?」

取得にはとても年月がかかるそうで、語学学校に行きながら2年半修行して、ゲセレの資格を取り、その後頑張ったらマイスターの試験に合格するとかで。

マイスター制度のことに興味を持った修造は、紹介して貰ったベッカライボーゲルネストという店の鳥山シェフを訪ね、そこで生まれて初めてドイツパンと出会う。

 

 

店には沢山のドイツパンが並び、厨房で鳥山にワリサーブロートやロッゲンブロートを試食させて貰い、その美味さに衝撃を受けた。

メアコーンブロートにレバーケーゼを、プンパニッケルにクリームチーズを塗って試食した。

「美味い」

「ライ麦の香りと酸味がいいだろ?」

「はい、今まで食べたことが無かったんです。勉強不足でした」

「これからもっと色んなパンに出会うよ」

修造は鳥山シェフにドイツの事を詳しく聞いた。

ドイツはパンの国であり、1,800種類以上もパンがある事、英語ならまだ耳に慣れているが、ドイツ語は難しい事など。

しかし若い時に身につけた技術は一生の宝になるとも言われた。

修造はまだ見ないドイツに思いを馳せ、ついにはドイツ行きを決心した。

まだまだパンの世界には知らない事がいっぱいある。

それを確かめてみたい。そんな強い気持ちに駆られた。

だけど律子に何て言う? 緑は生まれたばかりだ。

そんな事はできない。

 

ーーーー

 

修造は帰ってから親方に相談した。

親方と奥さんは「そんなに勉強したいのなら、私たちが2人の面倒を見るから行っておいで」と言ってくれたが、、

とにかく期間が長い。。

悩みに悩んだ。

 

 

俺には律子と緑がいるんだ

行くなら早い方が良い

 

この2つが頭に交互に浮かぶ。

どんどん時間が経っていく。

 

修造は再び鳥山シェフのところを訪れ悩みを打ち明けた。

「決めるのはお前だろ? もし行くなら全力で後押ししてやるよ。職場と学校を紹介するから渡航の準備をしておけよ」

修造が賞を取り、店は有名になって益々忙しくなっている。

自分が抜けたら大変だろう。

 

でも

 

人生はこの後も長く続くだろう。

自分ははっきりとした証が欲しい。

そしてその後の人生も律子と緑と一緒に生きたい。

 

ーーーー

 

「あの、、」

緑を抱いている律子に修造は話しかけた。律子は修造の表情を見た。

「何か言いたいことがあるんでしょう?」と言って、緑を寝かしつけてソファに座った。

修造のドイツに行きたいという話を聞いて律子はみるみる涙目になる

「そんなの納得できるわけないでしょう! 私たちが離れ離れになるなんて、そんな事出来るわけないじゃない!」

「ダメな事はよくわかってるんだ。だけど。。」

その後は2人とも何日か葛藤の日々が続いた。

 

ドイツ行きの資金は今まで開業のためにしてきた貯金で何とかなるでしょう。

でも私達はどうなるの? 修造がいないなんてそんな事考えられない。

どこにも行っちゃダメ。

律子は泣きすぎて胸が苦しくなった。

 

「俺は行ってくるよ。絶対最短で帰ってくるから待ってて欲しい」

無口な修造が心から絞り出して言った。

 

嫌だそんな辛い事。

 

でもそれでは修造の為にならないの? ここで修行したら良いじゃない。

 

ーーーー

 

ドイツ行きの日は迫ってきた。

どうしてこんな辛い事が起こるの。

律子の妹の園子は慰めた。

「行かせてあげるの? ひょっとして5.6年なんてあっという間かもよ。5年前を振り返ったら今日まであっという間だったじゃない? みんなで緑を育てようよ」

律子は泣くのをやめた。

絶対私と緑のところに帰ってきてね。

 

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修造は鳥山シェフに頼んでドイツでの職業訓練校や職場を斡旋して貰った。

週に3日学校、4日はパン屋さんで働き、何年かしたらゲセレ(パン職人の資格)の試験を受けて合格したらゲセレになれる。修造が目指しているマイスターの資格試験はまだまだその先の事だ。

緑を抱きしめてると心が揺らいだ。

こんなに小さな子を置いていくなんて自分は鬼の様な心を持っている。

パン屋で働き始めた頃はなんの目標もなかったのに、今は夢中になってもっと上を目指したい。

その気持ちに勝てないんだ。

緑ごめんね。

 

ドイツで資格を取るまでは会えないかもしれない。

働きながら学校へ行き資格を取るのは中々生活が苦しそうだ。

貯めたお金をいかにケチケチ使うかと言うことも考えなければならない。

律子ごめんね。絶対二人が困らないように仕送りするから。

 

修造は行ってしまった。

 

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しばらく律子は毎日泣いて暮らしていた。

そのうちこんなに苦しいならいっそ憎んだ方が楽になれるかもしれない。

私は緑を守っていかなきゃいけないんだもの。

そう思うようになっていった。

 

律子の心に冷たい何かが生まれ、修造の事を忘れなければ辛すぎると考える様になっていく。

私は緑だけを守らなきゃ。

パン屋の奥さんの勧めもあって、律子はパン屋の工場で働き始めた。

以前はここで修造が働き、修造が使っていたものを使っている。

寂しい、、会いたい気持ちが強くなってきたら辛いだけだわ。

一方、修造はドイツの職業訓練校に通いながら、パン工場での実習が始まった。全く言葉が分からない。帰ってからはドイツ語の勉強。そしてまたパン工場と目まぐるしく毎日が過ぎていく。

 

 

修造がやって来たドイツの町は以外にも四角い白い建物に四角い窓が多い町で、人口が多く日本人には住みやすい所だった。学校も近いし川が近く公園も多い。

寮の食器棚の上に律子と緑の写真と、持ってきた黒帯を飾った。

疲れて横になると毎晩思い出すのは律子と緑のことばかりだった。

自分は何をしてるんだ、このまま毎日を過ごしていれば目標に辿り着けるのか。

毎日焦りが大きくなっていく。

 

修造の修業先の店は大きな街の外れにあるHeflinger(ヘフリンガー)という店で、見たことのない様な大型のミキサーが3台、6段の窯が2台、出来上がった生地が延々と流れてきて成形を続けた。

マイスターがいてみんなにシェフと呼ばれている。職人は色んな国籍の人が居てみんなここに来て働いている事情はまちまちだ。パン部門とお菓子部門は仕切られていてそこに各々職人や見習いがいる。

とにかく早く言葉を覚えなきゃ、、そう思ったが元々自分は人と話すのが苦手で標準語もままならなかった。

 

ーーーー

 

先輩のノアがドイツ語の分からない修造にイライラして時々キレた態度でいたが、近くで仕事してるので避けられない。

こんな時は本当に分からないふりをしてぎこちない笑顔を向けた。

 

何千個とモルダーに生地を入れ続け、成形して並べて運ぶ。

そのあと機械の清掃。

日本でのパン作りとは比べ物にならない量のパンを朝から多くのお客さんが買って行く。

店員さんはクールだが、愛想よく話しかけると親切に接してくれる。

 

ある日工場の奥でブレッチェンを成形していた、最近では上手く出来る様になってきた。

なにか店から騒ぎが聞こえる。

どうやら店に強盗が入ってきた様だ。

みんな急いで見にいくと、店員さん2人をナイフで脅しているところが見えた。

修造はパンロンドで見たナイフ男を思い出した。

今度は怪我しないようにパンをオーブンに入れる木のスコップ(ピール)を持ってきて、男の前に立った。

女性従業員の首に鋭いナイフを突き立てている最中のナイフ男にこっちだと言うように「ドン!」とピールを床に突いて音を立てた。

男はナイフの切っ先を修造の方に変え、ドイツ語で何か叫びながらナイフをまっすぐ突き刺してきた、後から考えるとあれはお前から始末する!と言っていたんだろう。

修造は左から棒で腕を掬い上げてからそのままもう片方の腕に叩きつけた。

 

 

ナイフが落ち、そのまま男を倒して正拳突きを胸に放った。

男を裏返してピールをを背中側の右袖から左袖まで服にカカシの様に通して、「紐ある?」と聞いて、ビニールテープで両腕とも棒に縛り付け、足も縛った。

その一部始終を見ていたノアは、修造を忍者と呼ぶ様になった。

「なあ忍者、俺にその棒を振り回すのを教えてくれよ」と作業中の修造の横に立ってしつこく言ってきた。

それ以降毎日ノアに棒の「一の形」を稽古させた、引き換えに種起こしのやり方や生地作り、ドイツ語の製パンに纏わる言葉を残らず書き出して貰い、ノアが何度も一の形をやっている横で自分も書いて覚えた。

ノアは仕事終わりに修造の部屋を訪ねてきた。その時はビールを飲みながら、ドイツの職業訓練の仕組みや、発酵の事などを教えてくれた。

なかなか自分のことを話さない修造に「なあ忍者、お前は何をそんなにガツガツしてるんだ。なぜそんなに早く日本に帰りたい? ドイツじゃゆとりある仕事しかしないぜ。せっかく来たんだ、ゆっくりやろうぜ」と聞いてきた。

修造は日本に妻子がいて、1人でドイツに来た。出来るだけ製法について沢山勉強し、一刻も早く戻りたいとたどたどしく伝えた。

 

ーーーー

 

一方その頃日本では、律子は緑を保育園に通わせ、自分はパン屋で働いた。

9時から16時まで働き、なかなかパン作りは難しいと新ためて思った。

この時になって初めて修造の実力について改めて知る。

 

自分には修造の穴埋めはとてもできないんだわ。

毎日疲れてソファに横になる修造を思い出し、「あれだけの仕事量をこなしてたんだから無理もない」と初めて納得した。

お店から見ていた修造の素早い動き。もっと見ておけば良かった。

だが会いたい気持ちを抑えるにはそのことさえ封印した。

そうしなければ愛で自分は壊れてしまう。

 

毎日緑を保育園にお迎えに行き、手を繋いで歌を歌って帰り、パン屋さんで貰ったパンとおかずを一緒に食べ、夜は抱きしめて子守唄を歌った。

「緑は私が育てる」

 

 

一方ドイツでは

ノアの協力もあって、修造は片言ながらまあまあ話せる様になってきた。

自分の与えられた仕事を凄い速さで済ませ、ノアの仕事を随分手伝わせて貰った。お礼に空手の「一の形」と「二の形」を教えて毎日みてやった。

ノアは形の時の気合の入れ方が随分上手くなってきた。

修造の部屋に置いてあった黒いボロボロのロープを見て、

「なあ忍者、これはなんだ?」と不思議そうにノアが聞いた。

「それは空手の黒帯だよ。黒帯は頂いた瞬間から大切にずっと使い続け、そのうち帯の端が擦れていくんだ。責任を持って黒帯を締め、鍛錬をするんだ」

 

ーーーー

 

仕事帰り、街を歩いていると向かいから背が高いヒゲモジャのおじさんが歩いて来た。

腕が太くお腹が出ていて、リュックを肩にかけていたおじさん。

なんだかあのおじさん上腕二頭筋と胸筋が発達していてパン屋のおじさんみたいだなと思いながら歩いていると、突然後ろから黒い服の男が走ってきておじさんのリュックをひったくってこちらに走ってきた。

おじさんはドイツ語で待て〜と言いながら追いかけて来た。

修造はすれ違い様に黒い服の男の内股を足で引っ掛け、掬い上げてから街路灯のポールにぶつけ、男が跳ね返ってきた所をリュックを奪い取って胸を突いた。男はもう一度街路灯に打ち付けられ背中を強打した。

 

 

修造はその手でおじさんにリュックを返して、黒い服の男にもう片方の拳を見せた。言葉にすると長いが一瞬の事で、おじさんも男も「今一体何が起こったんだ」と思った。

男が逃げ去るのを見届けてから、修造はおじさんに何も言わずに立ち去ろうとした。

慌てておじさんが太い腕で修造の腕を掴んだ。

「まてまて、お前は一体何者なんだ⁉︎」

 

おじさんに連れられて、近くのカフェで二人で話した。

自分はパン職人で、早くマイスターになって日本に帰りたい事、その為に学校へ行く資金をプールし、帰国準備をしなければならない事をおじさんに言うと、急におじさんは大声で笑い出して言った。

「ボウズ! パンのことなら色々教えてやるからお前は俺のところに来い!」

よくわからないドイツ語でゆっくり話して貰うと、おじさんはエーベルトベッカーと言うマイスターで、パン屋のオーナーだった。

エーベルトにすっかり気に入られた修造は休みの日に直接パン作りを教えて貰える事になった。

 

 

大きな公園の見える山小屋風のエーベルトベッカーは、代々続くパン屋で、手作りのものばかりで、都会の機械に囲まれた工場よりも素朴だった。

店の棚には大型の田舎パンが並び、修造は珍しくてひとつひとつをゆっくり見て行った。

その後は石臼でその日の分の小麦やライ麦を挽いたり、1日おきの種を見て説明して貰ったり、種を作らせて貰ったり、生地を手ごねしたり薪でパンを焼かせて貰ったりとめちゃくちゃ楽しい時間を過ごせた。

エーベルトは修造に薪窯の温度管理を細かく教えた。

灰を掻き出し水のついたモップで拭いて水蒸気を発生させ、パンをピールにのせて滑らせ窯へ入れる。

窯で焼けたばかりのパンにチーズをのせたらこの世のものとは思えないほど旨かった。

修造は休みの日にエーベルトの店に入り浸った。

いつか自分もエーベルトの様なパン屋ができたら。

修造は自分の目指すものが見つかった気がした。

「修造よ。マイスターとは若手に製パン技術を教え、知識を教える立場なんだよ。伝統的な技術や決められた製法を守るんだ。いつかお前もマイスターになったらお前が教わった様に下のものに継承して行くんだ。」

修造はこれまでの人生で常に年上に可愛がられてきた。これは自分に与えられた徳なんだと薄々感じてもいた。田舎で空手を教えてくれた師範、パンを教えてくれた親方。鳥山シェフ、神社の師範。

みんな元気だろうか。

そして律子と緑は。

何度となく律子にメールや手紙を出したが、律子からは段々そっけなく返事も間隔が開いてきたと感じていた。

それでも緑の写真を送って欲しいとメールを送ったが、律子からの返事は無かった。自分のした事を考えるとそれも仕方のないことかもしれない。

 

 

 

そんな頃

ヘフリンガーに2年違いでに入ってきて、お菓子の勉強をしている日本人の女の子の麻弥が色々話しかけてくる様になった。

麻弥はナイフ男をカカシの様に縛った時その場にいて、色々興味を持ったらしくて、修造に話しかけたり何かと行動を共にしてきた。

「修造、次の休みにみんなでクリスマスマーケットに行ってみない? 珍しいレープクーヘンが沢山売ってるから勉強に行きましょうよ」他の人達も一緒に行くと誘われて同僚何人かとクリスマスマーケットに出かけた。

生まれて初めてこんなに煌びやかで飾りの凝ったマーケットを見た。

広い会場に屋台というよりも、しっかりとした作りの小屋が並んでいて、それぞれの店に所狭しとクリスマスのものが並んでいる。

「凄いなあ」

甘くて酸っぱいシナモン味のグリューワイン(ホットワイン)を飲んだ。

寒かったので何杯か飲んでほろ酔いになり、会場の店を見て廻った。

麻弥は何度も寄り添ってきたが修造はずっと気がつないふりをしていた。

麻弥から離れて観覧車を見ていた時すぐに見つかって麻弥が駆け寄って来た。

麻弥は華やかなタイプで正直ちょっと苦手だ。

腕を掴まれ綺麗な観覧車を二人で見ながら「修造、私修造のことが好きなの。私と付き合って」と詰め寄って来た。

この時初めて麻弥の顔を見た「自分は結婚していて、奥さんと子供がいるんだ。もし麻弥と付き合ったら、自分の性格では麻弥のことも自分の奥さんのこともどちらも裏切れないと思う。自分は日本に戻って律子とパン屋をする為にここにいるんだ。だからごめん。」と言った。

無口な修造にすれば頑張った方だった。

麻弥とはそれ以来疎遠になり、店であっても何も言わなくなった。ごめん麻弥。お互い遠くからやってきた者同士、頑張れよと思うことしかできない。

 

ーーーー

そのすぐ後

なんとか試験に出そうなドイツ語や教科の内容を勉強し、修造はゲセレの試験を受ける時期に来た。

 

実技では、テーブルいっぱいに自分の技術を凝らしたパンを並べる。

修造はエーベルトが丁寧に教えてくれた飾りパンを思い出しながら作った。

赤や緑色の生地で薔薇とRosengarten(薔薇の庭)の文字を綺麗に飾った。シンプルで大型のパンにステンシルを施して並べ、大型のカゴにプレッツェルやブロッチェンを盛りつけ。デニッシュは2色の葡萄を、マンデルクーヘンにチェリーを並べた。

修造の成績は中々のものだった。

やっとゲセレの資格を取得できた。

ほっとしたがまだ道の半ばだ。

次の目標に向かって学費を貯めつつ勉強しなければならない。

修造はなんとか捻出して仕送りをしていた。これは絶対断らせるわけにいかなかった。今のところ示せる唯一の誠意なんだ、何年たっても律子を愛している。なのに自分は何をやっている。

 

ーーーー

 

2年後、修造は親友となったノアにや世話になったヘフリンガーのみんなと別れを告げ、とうとうマイスターの試験の為に本格的にFachschulen(ファッハシュレ)と呼ばれる高等職業学校で勉強をしだした。

後は試験に合格しなくては。マイスターの試験はそう何度も受けられない。

日本に帰ったらドイツで学んだパンを作り、地元の人達に食べてもらいたい。そんな風に考えていた。

その前に律子と緑がお世話になっている親方のところで、自分の覚えた技術で下の子を育てよう。そのあと田舎に帰って自分の店を作ろう。

修造は色々なワクワクが止まらなかったが、試験のことともう一つ、律子がとても冷たい感じがしているのが気がかりだった。

メールは返事が無かったが、今はこんな感じだとまめにメールを送って自分の気持ちを伝え続けた。

修造は最近になってやっと『自分の気持ちを他人に伝える大切さ』を学んだ。

試験後、修造はやっとマイスターになる事ができた。エーベルトがお祝いをしてくれ、お別れを寂しがった。お世話になった皆んなに別れを告げ、今度は3人で来るからと約束した。

 

 

律子からメールが届いた。

「私、修造がくれたメールや仕送りに入ってた手紙をいつも読んでいたわ。早く帰ってきて欲しかった。会えないのが辛かった。どうして私達をこんなにほっておいたの。いいえ、何故かはわかってる。あなたはきっと以前とは比べ物にならないぐらいパンの技術を習得したんでしょう? 私達はただ離れ離れになってたわけじゃない。修造は早く私のところに帰ってきて、沢山の人のためにパンを作らなきゃいけないわ。そして私がそれを見届ける。でなければ長い間離れてた甲斐が無いわ。」

それは律子からの愛のメッセージで、パン職人の妻としての葛藤のメッセージでもあった。

律子、今すぐ走って会いにいきたい。

 

おわり

 

第2部も最後まで読んで頂きありがとうございます。このお話はフィクションで、実在する団体とは無関係です。

若いうちに修行して、腕を身につけて店を出すパン屋さんは多いです。しかし一生のうちに店を出すのは一度きりと決まっていませんので、何度勉強に出かけてもいいし、いつ勉強したりどこかの店で修行したりしても良いのです。

修造の中で1番胸を揺さぶられたのがドイツのマイスター制度だったのでしょう。

マイスターのブログなどを読んでいると、何年もかかったと書いてる方が多い様です。ここでは早く律子の元に戻さなくではいけないので、5.6年と言ったところです。

今はゲセレになる為に企業が面倒見てくれる所もありますので、どんな形で行きたいのかよく調べて決めるといいと思います。今はドイツでもマイスターを目指さなくてもお店を持てるそうです。外国から来た方もパン屋さんを営業してる人が多いそうですよ。

何をするのも覚えるまでは大変なものですが、一度身につけた技術は一生ものです。

自分の店を持つなら開店前にできるだけいろんな世界を見てみたいですね。

ドイツのクリスマスマーケットですが、各主要都市に毎年大きなマーケットが開かれます。ちゃんとした木の家みたいなお店が並び、服や置物、お土産など様々なクリスマス関連のものが販売されています。

ドイツのお菓子といえば日本ではシュトレンが知られていますが、Lebkuchenレープクーヘン(ジンジャーブレッド)も可愛くて楽しいお菓子です。ハチミツ、アーモンド、ナッツ、香辛料、スパイスなどが入っていて、クリスマス時期にはハート型の生地に色とりどりのアイシングやチョコレート飾りや文字を施したものが沢山作られ、マーケットではリボンをつけて壁にぶら下げて販売されています。

小説 パン職人の修造 第3部 世界大会編

小説 パン職人の修造 第4部 山の上のパン屋編


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