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パン職人の修造 江川と修造シリーズ  ジャストクリスマス

投稿日 : 2021年12月22日 最終更新日時 : 2022年5月11日 投稿者 : グロワール カテゴリー : All, お知らせ, ツイッター小説, パン屋のお仕事, パン職人の修造, 江川と修造

 

パン職人の修造 江川と修造シリーズ

ジャストクリスマス

 

11月の終わり頃、

パンロンドでは何度目かのシュトレンを大量に作っていた。

シュトレンはドイツが発祥で、スパイスやフルーツを大量に使ったパン菓子の事だ。

「うちは折り畳んで直焼きにするけど、型に入れる店も多いんだよ」修造は江川と杉本に、シュトレンを手成形しながら言った。

「はい、以前僕たちが漬け込んだフルーツに洋酒が染み込んで、熟成してここに使われているんですね」江川が感激して言った。

「そうそう」

 

お店では、親方の奥さんがアドベントカレンダーを出してきて、風花に見せながら

「これね、アドベントカレンダーって言うのよ。毎日この小さな窓を開けていくのよ。そしてクリスマスを心待ちにするの」

「わあ〜可愛い!丁度開け終わったらクリスマスなんですね。ロマンチックだわあ」

お店から聞こえて来る風花達の声に耳をそばだてながら「アドベントって何ですかあ?」

と杉本が修造に聞いた。

「アドベントってキリスト教西方教会でイエスキリストの降誕を待ち望む期間のことなんだよ。待降節、降臨節とか色んな呼び方があるみたいだけど。クリスマスの24日から逆算して日曜日が4回入る様に数えるんだ。」

「はー」

「例えば12月24日が金曜日の場合、12月1日からだと3回しか日曜日がないから4回になる様に11月28日の日曜日から始まるんだ。そして4本の蝋燭を用意して、毎週日曜日になると一本ずつ蝋燭を灯してお祈りしたり、Mutter(お母さん)の焼いたクッキーやシュトレンを食べるんだ」

 

「へー」

 

 

「ドイツにいた時は11月になると夜から昼までヘフリンガーで大量にシュトレンを作って、そのあとこっそり近所のケーキ屋にバイトに行ってそこで夜までシュトレンを作ってたな。2時間ぐらいしか寝てないからうとうとして先輩に麺棒で頭を小突かれたっけ」

「小突かれるなんて切ない思い出ですね」江川がそれを聞いて涙目で言った。

「家族に仕送りを捻出したんだよ」

「大変だったんだ」心優しい江川が泣き出した。

「江川、大丈夫だよ。いい経験になったし、そういうのが俺の宝物なんだ」

 

そうだ。帰ったら緑にアドベントカレンダーを作ってあげようかな。

毎日お菓子を袋や扉から開けて出すなんて楽しいだろうな。

修造は緑の愛くるしい笑顔を思い出してうっとりした。

 

その横で「クリスマスかあ。あ〜俺、プレゼント何にしようかなあ」杉本が悩ましい声を出した。

「風花にだろ?」藤岡が返事した。

「そうです」

「趣味が違うの貰ったら嫌だろうから本人に聞いたら?」

「それもそうだけど直接聞くのもムードないなあ。。そうだ!いつも同じ職場にいるんだから俺の勘で当ててみますよ」

「ああ、例の鋭い勘でね」

「ははは」杉本は笑って誤魔化した。

 


 

12月の始め

田所家では

「ねぇおかあさ〜ん」

「何よ緑ったら猫撫で声を出して」

「あのね、サンタさんにね、プリムラローズのお化粧セットをプレゼントして欲しいの」

プリムラローズとは今大人気のアニメで、何人かの少女が色んな色のコスチュームで戦うあれだ。

主人公の赤とピンクの服を着てる子は赤色の口紅を塗ると変身して敵と戦う。

 

 

お化粧セットとは口紅、ミラー、戦う時に持つ魔法のロッドの事だ。

「じゃあお母さんからサンタさんにお願いしておくわね」

「ほんと?やったぁ」

緑にはどういうシステムかわからないがお母さんに頼めばなんとかなる。

本当は律子の実家の両親に電話をして前もって送ってきて貰うシステムなのだが、そのサンタ達は孫の喜ぶ顔見たさにそろそろ自分たちからだと言いたい。

緑はテディベアはサンタさんからのもう一つの贈り物と思っていたが、一度修造がお土産として渡したので少しだけ疑念を抱いている。

その民族衣装を着たテディベアは本当は修造がドイツからクリスマス前に送っていたものだが内緒だ。

 


 

クリスマスは大好きな人と過ごしたい。

 

 

風花が大量のシュトレンを包む時にエージレスを入れるのを、早めに仕事が終わった杉本が手伝っていた。

エージレスとは、ソフトなしっとり系の焼き菓子などに入ってる小さな脱酸素剤のことで、空気に触れれば触れるほど効力がなくなるので素早くお菓子の袋に入れて閉じなければならない。

なので二人で力を合わせてやると早くできる。

「あのさあ風花」機械で袋を留めながら杉本がそれとなく言った。

「なに」

「、、、俺達クリスマスも仕事だね」

「定休日じゃないって事だけでしょう?当たり前じゃない」

こんなにサバサバと言われてどうプレゼントの話に持っていったらいいのやら杉本は困った。

「ほら早く閉じてよ、エージレスの効果がなくなるでしょう!」

「はいはい」

2人はしばらく黙って作業していたが、急に風花が

「最近ぐんと寒くなったじゃない?」と切り出した。

「うん、朝もここに来る時寒いな」

「、、あったかいものが欲しいなあ」

「缶コーヒー買ってきてやろうか?」

「、、、」

風花は下を向いて黙々と仕事をし始めた。

それを聞いていた藤岡が呟いた。

「勘が鈍いのも見ていて辛いな」

 


 

12月のはじめ

夕方職人達が帰った後、修造はヘクセンハウスを作り出した。

パーツは作ってあったので、Puder-Zucker(粉砂糖)でアイシングを作り、家の形に組み立てて飾りを付けていた。

「修造、まだ帰らないのか?」配達から帰った親方が聞いた。

「親方、これ作ったら帰ります」

「すまんな、これ。パンロンドの売上あげる為だろ?」

「俺、勝手させて貰ってるのでこのぐらいさせて下さい」

「俺もやるよ」

「はい」

「どうだい?ホルツの修行は」

「はい、大会を見越して練習しています。まだまだ未完成な事ばかりですが」

「江川はどう?」

「頑張ってますよ。着実に進歩しています」

「俺、修造が大会に出たところ想像したらゾクゾクするなあ。楽しみだよ」

「そうなる様に頑張ります」

修造は砂糖菓子のサンタをハウスの前につけながら言った。

「これからみんなにドイツパンを教えて、お客さんにもっと来て貰おうと思ってるんです」

「美味いもんな、お前のブレッツェル」

「それしか恩返しの方法がわからないんです。今の俺があるのは親方のおかげなんで」

こっちこそ感謝してるぜ修造、こうやってお前と仕事できるのも限りがあるんだ、寂しいけど俺はお前を心から応援してるぜ。

 

 

「親方、泣いてるんですか?」

「いいやあくびしたんだよ、守っていくよお前が残してくれたものを」

親方の小さな瞳にキラッと光る水分が滲んでいた。

 


 

次の日

藤岡と杉本は一緒にクロワッサンの成形をしていた。

藤岡が杉本に話しかけた。

「あのな」

「なんすか?」

「あったかいものにも色々あるんだよ」

藤岡は整った顔立ちをちょっと近づけて言った。

「はあ」

「例えば?缶コーヒー以外に」藤岡は答えを促した。

 

「え?俺の心的な?」杉本は自分のハートを指差して言った。

「まあ勿論それもあるけどね。。寒いからあったかいものが欲しいって事だよ。。俺優しいから答えを言っちゃったよ」

「勘が鋭どいんですね」

「俺はね」

え?

あったかいものをとりあえずプレゼントすりゃいいんだな?

あったかいものそれは、、おれ、缶コーヒーとカイロしか思い当たらない!

 


 

12月中頃

杉本は早番だった。

実家暮らしの杉本の2階の六畳の部屋

ベッド脇の小さなテーブルの上で朝3時半に目覚ましが鳴った。

杉本は手探りで目覚ましを止めてまた手を素早く布団の中にひっこめた。

部屋は冷え切って布団は暖かい。

「うーん起きたくねぇ」

布団の中でしばらく微睡んでいてなかなか出てこない。

「このまま寝ていても、ま、いいか」

すると突然頭の中に風花の怒鳴る姿がうつる。

「何してんのよ!早く起きなさい!」風花がもしここにいたらそう言うだろう。

「うわっ!」

 

 

杉本は飛び起きた。

「やべ!あと10分しかない!」

早く行かないとドゥコンディショナーというパンの機械のタイマーが作動して発酵のスイッチに切り替わる。するとパンが徐々に発酵し始める。他にもあれやこれや用はある。ついでに修造の厳しいまなざしも思い出した。

杉本は手早く着替えて家を飛び出し自転車に乗ると全力で漕ぎ出した。

「早く〜」

ピューピュー風が顔に吹き付ける。

「寒い」

と、その時「ちょちょ、君待って」

急に声をかけられて追いかけてきた姿を振り向いて見るとお巡りさんだった。

「職質だ!」

職質とは職務質問の事だ。

その若いお巡りさんは、自転車を降りて杉本の自転車の前輪の先を少し足で挟んだ。

まじかに見た制服がカッコいい。

逃げられないようにしてるのかと杉本が思っていると優しく話しかけて来た。

「君、何してるの?」

「今から仕事なんです」

「名前は?」

「杉本龍樹」

「住所は?」

「そこの青い屋根の家です」

杉本は元来た道のずーっと遠くに見える自分の家のシルエットを指さした。

「職場はどこなの?」

「ここからすぐのパン屋です。パンロンドって言います」

「ああ!あの髭のお兄さんのいる所?」

どうやら修造もよく声をかけられるのかお巡りさんも知ってる様だった。

「そうですそうです!あと1分で遅刻ですよ」

「そりゃ大変だ!気をつけてね」

お巡りさんは杉本の自転車から足をどけて横に移動した。

「はーい、お疲れ様でーす」笑顔を作ってお巡りさんに爽やかにそう言った後、自転車に乗って猛ダッシュで自転車を漕いだ。

「もう遅刻だよ」独り言を言い、杉本は凍えながらパンロンドにたどり着いた。

「おー!寒ーっ」

「確かに!あったかいものが欲しい!」

杉本は1人で声を強めた。

 


 

夕方、杉本は仕事が終わったので風花とヘクセンハウスを透明のケースに入れてリボン付きのシールを貼りつけていった。

「曲がってるわ!丁寧に付けないとお客様に選んで貰えないじゃない!」

「はいよ!風花。聞いてくれよ!俺、今朝職質されたんだよ」

「顔が怖かったからじゃない?」風花は笑いながらからかった。

「まあ、そうかもな。遅刻しそうで凄い顔で自転車乗ってたし」杉本はその時の必死な自分の顔を思い出して笑いながら言った。

「何時ごろなの?」

「4時ギリギリだったよ」

「えっ」

「10秒前だった」

「そんなに早く?」

「遅く、だよ。寒かったな」

「そうなのね」

風花は何か考えてる様だった。

また黙って包み始めた。

「何?急に」

「なんでもないよ。ねえ、疲れてるんじゃない?一人でやっておくよ」

「平気だよ俺若いし」

「私よりって事?」杉本より2歳年上の風花はちょっと口を尖らせて杉本を見た。

「そんな訳じゃないよ!」

勘の鈍い杉本もさすがにいくつでも歳の話はデリケートだなと思った。

 


 

クリスマス前は心がウキウキする。。

職場と学校から別々に家に帰って来た修造と緑は、一緒に手作りのアドベントカレンダーの袋を紐から外して中身を見た。

「今日はチョコレートクッキー!」

緑は中に入っていたキャンディ包みになったカフェーシュタンゲを2つ出した。ほろりとした食感の搾りだしクッキーでヌガーをサンドして両端にクーベルチュールチョコが付けてある。

修造の作ったアドベントカレンダーは小さな紙袋に1から24迄数字を書いて、紐を通して壁に貼り付けてある。

順番に毎日ひとつずつ外してお菓子を食べる楽しいものだ。

「はい、お父さんに一つあげる」

「優しいね、緑」

「お父さんにだけよ」

「ありがとう」

修造はチョコクッキーを緑と分けて、クリスマス前のひと時を楽しんでいた。

いいもんだなあ、こういうの。

チョコ以外にも甘い時間だった。

「緑はいい子だからサンタさん来るよね」

「ウフフ」

二人で見つめあってニッコリした。

緑はこたつの中の修造の足をこちょこちょした。

「くすぐったいよ緑」

「アハハ」

うわ!可愛い。

心から愛情が染み出す、緑の笑顔を見て温かな幸せを噛み締めた。

 


 

アドベント第4日曜日の次の日、あと何日かでクリスマスだ。

夕方、杉本と風花は2人で帰る所だった。

風花の家はパンロンドから近くて送っていくのもあっという間だ。

風花は以前カッター男に襲われたので、杉本は怪しい奴がいないか通りをチェックしていた。

商店街を歩きながら「年末って感じね」

2人は慌ただしく歩く街の人たちを見ていた。

「あれ?龍樹じゃん」

急に呼ばれて声のする方を見ると制服を着崩した派手な女子高生が立っていた。

「あ、結愛(ゆあ)」

「久しぶり!龍樹が高校急に辞めちゃって寂しかったんだからね」

結愛は杉本の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。

 

 

「行こう!」

「いや、行こうって、、」

杉本は風花の方を見た。

「どうぞ、ウチはすぐそこだからもう帰るね」

きっぱりとした口調で風花が言った。

ちょ、ちょっとぐらいあるでしょ?

誰よこの女とか、私の事どう思ってるの?とかないの?

さっさと行ってしまう風花の背中を見送った。

「結愛、今彼女と歩いてただろ?行こうってなんだよ」

「だってぇ、久しぶりだったしぃ」

結愛は腕を組んだまま右の足首をクネクネさせて口をとんがらせて杉本を見た。

「高校はどうなんだよ、もう高3だから進学か就職だろ?」

「ヘアメイクの専門学校に行くつもり」

「へぇ」

「ねぇ、さっきのと付き合ってんの?なんかおばさんっぽくない?」

杉本は風花がこれを聞いてなくて心からほっとした。先に帰っててくれて良かったかも。

「おばさんってなんだよ、俺よりずっとしっかりしてるだけなんだよ」

「龍樹は私といる方がお似合いだよ」

結愛はショーウィンドウに映った自分達を指差して「ほら」と言った。

確かに金色に髪を染めた杉本は、派手な出立ちの女子高生と釣り合いが取れているように見える。

杉本はガラスに映った自分の姿をマジマジと見ながら言った。

「結愛、俺がしっかりしてないだけなんだよ、俺は今。大人の世界に足を突っ込んでるんだ。パンの修行中なんだよ」

「パン屋で働いてんの?」

「そこでは俺をちゃんと導こうとしてる人しかいないんだ、どの人もどの人も」杉本はみんなの顔を思い出して「俺が頼りないだけなんだよ」と言った。「結愛、ヘアメイク頑張れよ、じゃあな」

 


 

次の日、江川と修造はパンロンドでバゲットを成形していた。

杉本と風花が一言も口を聞かないのを見て、「なんかあったのかなあ、風花さんは杉本君を見もしない、、、」と江川が言った。

「ケンカかな。ほら真っ直ぐに生地を置いて、よそ見するなよ」

「あ、はい」毎日の様に修造に成形を見てもらって江川は随分成形が上手くなった。

コンテストに出るなら一人で全てできなくてはならない。勿論今頃自分のライバルとなるべき職人もそうなる為に練習しているだろう。

まだまだ道のりは長い。

「明日からロールインをしてみよう」

「はい」

ロールインとはクロワッサンの生地を薄く伸ばしてシート状にしたバターを折り込んでいく作業の事だ。その作業の後、三角にカットして巻くといつものクロワッサンの形になる。

その時

「うん?」

「あれ?」

修造と江川は同時に顔を見合わせた。

「杉本!焦げ臭くない?」

「えっ?」杉本は慌ててパンを焼く窯の真ん中の扉を開けた。

「あーっ!」

みんなも「あっ!」と言った。

窯からモクモクと焦げくさい熱気が舞った。

窯の中のラスクが鉄板4枚とも真っ黒になっていた。

「やっちまったものはしょうがないよ」

親方が窯から真っ黒になったラスクを出した。

「親方すみません、上火150度のところ250度にしちゃいました」

「あるあるだな」

みなそれぞれうっかりパンを焦がした事があるので寛容だ。

今日は特に機嫌の悪い風花以外は、、

「あ、ごめんね。焦がしちゃった」

冷たい目で見てくる風花に言った。

「昨日遊びすぎたから頭がぼーっとしてるんじゃない?」

「あの後すぐ一人で帰ったよ」

「本当かしら!つまんないことばかり考えてるから失敗するのよ」

ちょっと自分でも驚くほど冷たく言い放ってしまった。

杉本はそれ以上声をかけなかった。

 

「風花」

「なんですか修造さん」

普段話しかけてくることのない修造が店にパンを盛ったカゴを持ってきて来て声をかけてきたので風花は驚いた。緊張して背中がピリッとする。

「あいつ、フワフワしてるいい加減な奴に見えて頑張るときは頑張るんだよ、こないだも犯人の自転車を1日探して突き止めた。あれって風花を思っての事だよ」

「わかってるんですけど、、、」

風花はパン棚の方を向いて持っていたトレーのパンを並べ出した。

修造は背中に向かって言った。

「素直になってやれよ」

帰り道、風花は暗い気持ちになっていた。

いつもギスギスしちゃうのは私のせいなんだわ。

冷たい口調で厳しい事ばかり言ってしまう。

私達合わないのかも、気持ちも見た目も。

商店街はクリスマスソングが鳴り、買い物客でいっぱいだった。

下を向いて歩いていると「おばさん」と昨日の女子高生とその友達らしき女の子四人が風花を取り囲んだ。

「おばさんってなによ!」

風花はイライラした。

「二つしか違わないのに!」

 

 

「私さぁ、昨日龍樹を見てびっくりしちゃったんだよね。前の龍樹とは全然違うくなってたし。高1の時の龍樹って喧嘩したり暴れたり物を壊したり。とうとう学校に来なくなっちゃって」

「ふーん」

「今は龍樹を導こうとする人しかいないとか言っちゃってさぁ」

「あんたもそうなの?おばさん」

「おばさんじゃないってば!」

「龍樹に言っといてよね、また遊ぼうって。ほら、私たちの方がしっくりくるよね」

「あんたとはさぁ」風花をジロジロ見て「違うよねなんか」

風花は言い返した。

「龍樹はだんだん変わってきたわ。初めはどうだったか知らないけど、何かに打ち込むってそういう事よ。私にもキレたことなんて一度もないわ。いつも優しくて助けてくれるもの」

それなのにいつもきつく言ってしまう。

これじゃあダメよね。

風花は心の中で反省した。

「朝だって超早く起きてるんだからね!あんた達なんて何も知らないじゃない」

最後にキツい口調で言った。

「私が一番知ってるの!二度と邪魔しないでね」

風花は4人の包囲を突き破り、歩幅を大きくしてそのまま駅の方にズンズン商店街を歩いて行った。

「結愛!、あんなおばさんほっといて行こう!」

「うん、、、」

龍樹は私達より先に大人になっちゃったんだ。

そう思いながら結愛はポケットに手を突っ込んでブラブラと元来た道を歩いて行った。

 


 

杉本はため息をつきながら東南駅の近くにできた巨大なショッピングモールに来ていた。

「今日失敗したし、風花は冷たいし、ついてねぇ」

俺、勘も鈍いそうだし。

今日の風花は一際キレ味が良かったな。

いつも俺の為に言ってくれてたのはわかってるけど、何回言われてもぬかに釘。

自分で言う事じゃないなあ。

「色々寒い」

杉本はそう言いながら店の中に入った。

「いらっしゃいませ、今日はどうなさいますか?」

「普通っぽくできますか?俺、心を入れ替えるんで」

「はい!心を入れ替える為に普通っぽく入りまーす」

まだ新しい建物の匂いのする店内で店員さんが言った。

 


 

杉本は用を済ませたあと、色々な店を回った。

「それにしても色んな店があるもんだ」

モールから外に出て歩いていると、風花が大きな広場のクリスマスツリーの周りにぐるりとおかれたベンチに座っている。

「あ、風花」

「あ」

「髪の色が茶色になってる」

「俺、変わろうかと思って」

杉本も横に座った。

「風花」

「龍樹、今日はごめんね。言い過ぎだよね、あれ」

「いや、気にしてないよ」

風花はホッとしてうっすらと涙目になった。

「あんなに言ったら嫌われちゃうんじゃないかと不安になったの。それに、昨日の女の子、お似合いだったから」

「あのさ、俺パンロンドに入って来た時すぐトンズラしようと思ってたんだ」

「トンズラ、、、」

「だけど修造さんがいて、親方がいて、藤岡さんがいて江川さんがいて、そして風花がいて。みんなが俺の面倒を見て、仕事も面白くなってきたし辞めれる訳ねえだろって今は思いだして」

風花は黙って聞いていた。

「俺には風花みたいなしっかりした人が必要なんだ。俺は風花がどんなにきつく叱ってきても全然悪い気がしない。それは風花が俺の為に言ってるってわかってるからね。いつもありがとう」

風化は顔が赤くなった。

「私、いつもそばにいてくれる人がいいの。振り向くといつも見ていてくれて、声をかけてくれて困った時には助けてくれる人。」

「それって俺のことだね」

風花は下を向いて頷いた。

「でも、1人でどこかに行くんなら私多分3日で嫌になっちゃうから」

「3日!短すぎるだろそれ」

「冗談よ。じゃあ一週間ね」

「わかったよ一週間以上何処かに行かない」

「フフフ」風花はこのやりとりが面白くてはじける様に笑った。

そしてグリーンの包装紙に赤いリボンの包みを渡した。

「私ねクリスマスプレゼントを買ったのよ」

「えっ」

「はいこれ」

俺にプレゼント!

「やった!」

「先こされちゃったけどこれ」

そして似たような大きさのプレゼントを風花に渡した。

「あ!」包みを丁寧に開けた風花が言った。

「同じマフラー!ウフフ」

「店員さんが言ってただろ。これが一番あったかいって」

ほんとあったかいわね

うん、あったけえ

俺たちお似合いだな

 

おわり

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